第5話 光さす庭・フィナーレ
キィン!
女子生徒「ほらほら見て、すごいわ!」
女子生徒「すごいって何が?」
女子生徒「ほら、樹璃キャプテンと、ミッキーよ!」
女子生徒「ホントすごーい!」
女子生徒「ね、すごいでしょー?」
女子生徒「すごすぎるわー!」
女子生徒「マジ取れそうよー!2人とも全国レベルなんだもん!」
女子生徒「へー!納得ー!」
女子生徒「ねえねえ、ところでさーあ?」
幹「ふっ!」
女子生徒「ああ!」
樹璃「はあ……」
女子生徒「きゃー」
樹璃「はあ!ついに取られたな。強くなった」
幹「いいえ。まだまだです。まだまだ完成していません」
樹璃「いや、完成していないことが君の強さなんだ。純粋ゆえの勢いだな」
幹「えっ」
樹璃「君の剣にはいつも素直な勢いがある。それが今日は一段と勢いを増しているようだ。そのわけは、答案用紙の女の子か?」
幹「な……何言ってるんですか」
樹璃「でも、君の剣は戦うためじゃないな」
幹「はい」
アンシー「ありがとう」
サー(植物に水をあげている)
幹「ふっ」
幹「ここはあの庭に似てるなぁ」
アンシー「え?」
幹「はっ」
幹「ふっ」
チュチュ「チュッチュッチュ〜」
ウテナ「こらチュチュ、待てよ〜。ん?
あ……あれ、お邪魔だったかな」
幹「え?」
チュチュ「チュ〜チュ?」
ピアノの音
幹「僕が、僕の求めている音色だ」
ウテナ「これ、ゆうべも姫宮が弾いてた曲だよね」
幹「ええ。光さす庭。小さい時、僕と妹が作った曲です」
ウテナ「君が作ったの?でもこれ有名な曲だよね」
幹「僕と僕の双子の妹は、物心ついた頃から、ずっとピアノをおもちゃにして遊んだんです。
あの庭で。僕と妹がピアノを弾くと、いつも周囲の大人達は驚ろいたものでした」
ウテナ「へー。兄弟揃って神童だったんだ〜」
幹「今思えば、僕の幸せの全てがそこにはありました。だけど」
ウテナ「だけど?」
幹「だけど僕は、それを壊してしまった!自分の手で、壊してしまったんです!」
幹妹「コンサート?」
幹「そう。来週の木曜日、みんなが僕たちを見に来るんだ!」
幹妹「だけど私、そんなにたくさんの知らない人たちの前に出るのは、そんなにたくさんの知らない人たちは、怖い」
幹「大丈夫!大丈夫だよ、僕がついてるから!
僕がずっと側にいて、いつもと同じように2人でピアノを弾くだけさ。何も怖いことはないよ!」
(音楽)
幹「うー……」
医者「はしかですね。まあ1週間も安静にしていれば、回復しますよ?」
男性「ほらほら、君はコンサート会場へ。もうみんなが待ってるよ?お兄さんの分まで頑張らなきゃね?」
幹妹「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
バタン
男性「舞台の上から突然逃げ出してねえ。日が暮れるまでどこかに隠れていたんだ。そのあとは、こうして一言も口を聞いてくれないんだよ」
幹「以来、妹はピアノを弾かなくなってしまったんです」
シーンカッカッカ チーンカッカッカ
幹「そうなって、はじめて僕は自分がどれほど妹のピアノが好きだったのか、気づきました。
どれほど、あの庭を愛していたか」
ウテナ「うーん……」
幹「どれほど技術を磨いても、妹が弾くあのピアノの音色は、どうしても出せなかった。僕はその音色を出すためだけにピアノを続けているのに。
だけど彼女の、姫宮さんのピアノには、それがあるんです」
ウテナ「それってあばたもえくぼってやつー?」
ポーン
幹「僕はついに輝く者を見つけたんだ!」
ウテナ「それって告白ってやつですかー?」
幹「え……」
ピアノの音
ウテナ「どうする?姫宮」
アンシー「え?」
ウテナ「年下の男の子って、どお?」
アンシー「私はウテナ様の花嫁ですから」
幹「えっ」
ウテナ「あのさあ、姫宮。だからそのウテナ様の花嫁ですからって言うのはやめてくれよなぁ?」
アンシー「だって、私はウテナ様とエンゲージしているんですもの」
ウテナ「あのさあ!姫宮が僕の花嫁だとか、そういうの認めたわけじゃないんだからね!
ただ女の子が決闘で、誰かの花嫁になるなんて、馬鹿げている!僕は個人の人格をないがしろにする、こんなシステムを許せないだけさ!」
桐生「卵の殻を破らねば、雛鳥は生まれずに死んでゆく。我らの雛が。卵は世界だ。世界の殻を破らねば、我らは生まれずに死んでゆく。世界の殻を破壊せよ」
樹璃・桐生「世界を革命するために」
樹璃「今日は何の集まりなのかな?世界の果てからの手紙は、まだ届いていない」
桐生「そう。我々は皆、手紙に従って集い、手紙の指示通り行動してきた。だが本日、緊急動議が提案された」
カチッ
幹「緊急動議。僕は提案します。この生徒会の解散を!」
桐生「いきなりだな」
幹「決闘で姫宮さんを奪い合うなんて、馬鹿げている!やはりそういうことは、許されることじゃないと思う!どれほど大きな力が手に入るとしても、姫宮アンシーという1人の人格をないがしろにするこんなシステムは認められない!」
樹璃「恋は人を変えるねえ。なるほど。君が添削していた答案用紙の子っていうのは彼女だったのか」
桐生「自分が本当に何を求めているのか。若さが邪魔をして見えないことはある」
幹「結局僕たちのしていることは、人間にとって、何か大切なものを壊しているんじゃないですか」
桐生「世界の殻を、破壊せよ」
樹璃「世界を革命するために」
アイキャッチ
コツコツコツコツ
ガチャーン
幹「ああっ」
バサッ
幹妹「ったー。あら。
無愛想だね」
幹「どいてくれよ」
幹妹「落ちたわよ、楽譜
ねえ、また私としてみたい?」
幹「お前なんかに何も期待してないさ。どうせ弾くつもりもないくせに、こんなところで何をしているんだ」
幹妹「別に?私の自由でしょ?音楽室は、ピアノを弾くためだけのものじゃないのよ」
女子生徒「おはよ、元気?」
幹妹「おはよ、元気よ」
桐生「おはよ。薫幹君」
幹「……!」
ボロロロロロン
桐生「君の妹は、君に似て可愛いね。それに、君に似て素直だ」
アンシー「おはようございます」
桐生「本当に大切なものは、自分の手に入れて守らなきゃ、人に盗られちまうぜ?ミッキー。例え今の生徒会を解散しても、薔薇の花嫁を狙う者は後をたたない。エンゲージしたものだけが、花嫁を思うがままに出来るんだからな」
幹「思うがまま……」
カツカツカツカツカツ
幹「思うが、まま」
ピアノの音
幹「ねえ、姫宮さんって、いつからピアノを始めたの?」
アンシー「さあ。ずいぶんと小さい時からだったから、はっきりと覚えてないの」
幹「そう。小さい時の姫宮さんって、きっと天使みたいに可愛かったんだろうな〜。妹のピアノは、本当に素晴らしかったんだ」
幹(今度は、失くしたりしない!絶対に!)
幹「ピアノは好きですか?」
アンシー「ええ」
幹「また、僕のために弾いてくれますか?」
アンシー「ウテナ様がいいって言えばね」
幹「明日はどう?」
アンシー「ウテナ様がいいって言えばね?」
幹「何でも天上先輩の許可がいるんですね〜」
アンシー「だって、私は薔薇の花嫁ですもの」
幹「じゃあ、天上先輩がピアノをやめろって言えば止めるの?」
アンシー「もちろんです。私はエンゲージした方の思うがままですから」
幹「!!」
バサバサ
桐生「エンゲージした者だけが、花嫁を思うがままに出来るんだ
本当に大切なものは、自分の手に入れて守らなきゃ、人に盗られちまうぜ、ミッキー。薔薇の花嫁を狙うものは、後を断たない」
幹「大丈夫。あなたの音色は、僕が守るから!」
アンシー「どうもどうも〜」
若葉「ね、追試っていつ?」
ウテナ「来週。ま、強力な家庭教師のおかげでなんとかなりそうだよ」
若葉「へー。誰よ家庭教師って」
「キャー、ミッキーよミッキー」
カツカツ
ウテナ「やあ、姫宮なら、温室にいると思うよ?」
幹「いいえ。今日は天上先輩に用があってきたんです」
ウテナ「ちゃんとやってるよ。一次関数も連立方程式もさ」
若葉「じゃあ、家庭教師って」
ウテナ「うん」
幹「今日の放課後、広場で待ってますから」
ウテナ「ええ?」
幹「待ってますから」
A子「ザッブーン。ドッボーン」
B子「みよ、この広い海原を!100人の部下を従え、今日も7つの海へと乗り出す!俺は海賊!世界のめぼしい財宝は、今や全てこの手にある!」
A子「かしらかしら、でも頭!頭の宝箱には、どうして頭の欲しいものだけ、無いんですかい?」
B子「俺が本当に欲しいもの?」
A子「だってだから頭は海賊の頭をやめられないんでげしょー?」
B子「俺が本当に欲しいもの」
A子「頭が本当に、あ、本当に欲しいものは〜」
B子「!俺が本当に欲しいものは!」
A子「あ、頭、船底に穴」
B子「えっ」
A子・B子「ああああああああ」
♪絶対運命黙示録
ウテナ「結局、こういうことになるんだね、ミッキー」
幹「僕は、どうしてもあの音楽を取り戻さなきゃ。だから、どうしても花嫁が必要なんだ」
ウテナ「君はピアノの前に座っている方が似合っているのに」
樹璃「全くだな」
アンシー「気高き城の薔薇よ、私に眠るディオスの力を、主に答えて、今こそ示せ」
ウテナ「世界を、革命する力を!」
ゴーンゴーンゴーンゴーン
幹「薔薇の花嫁は、僕のものにしますから!たとえ、あなたを傷つけても!」
♪音楽
幹「ピアノは好きですか?」
アンシー「ええ」
幹「必ず!僕のものに!
フッ!」
キイン!
ウテナ「ううっ」
幹「はっ!」
キン、キン、キン、キン
ウテナ「強い……」
幹(流石だ、あの西園寺さんを2度も破ったことはある)
ウテナ「はあ、はあ、はあ、はあ」
幹「やりますね」
ウテナ「んっ、そりゃどうも!」
幹「でも花嫁のピアノは僕がもらいます」
ウテナ「こんな方法でか?」
アンシー「私は、エンゲージした方の思うがままですから」
幹(彼女の目が言ってる。本当は、自由になりたいんだと。僕が君を、僕が君の美しい音色を守ってあげるよ、姫宮さん!)
ウテナ「勝負!
はぁぁぁぁ!」
幹「はぁぁぁぁ!はあ!
僕は絶対に負けない!彼女は僕を信じてるんだ!」
アンシー「そこだ、ウテナ様!やっちゃえ!」
幹「えっ……」
カシャン!
ピシッ
ゴーンゴーンゴーンゴーン
幹「あ、あああ、あ……」
樹璃「ああ……」
ウテナ「これで、文句無しだな」
幹「どうして、誰も輝く者になってくれないんだ。誰も」
アンシー「ご苦労様。また勉強教えてね?」
女子生徒「あんたさー、本当に昔ピアノやってたのー?私でも、もう少しは上手いわよ?」
幹妹「ま、才能なかったのね。興味もなかったけど」
女子生徒「じゃあなんでやってたのよ」
幹妹「隣に住んでいた男の子がさ、昔よくラブレターくれたんだよね。あなたのピアノが好きですって」
女子生徒「へー」
幹妹「その子勘違いしていたのよね。私がピアノを弾けるって。弾く時はいつも兄貴と弾いてたからさ。小さい時はよく間違えられてたわ。私までピアノが上手いって。兄貴は天才だからさ、私がでたらめに弾いても、ちゃーんとフォローしてくれるんだよね。でもコンサートっていうか、発表会の時、兄貴が寝込んで熱出しちゃったから全ておじゃんよ。1人で何も出来ないのがバレバレってやつね?」
女子生徒「あんたのお兄さん、かっこいいよね?」
幹妹「まあね」
若葉「でもってそのあとママがね?」
幹「天上先輩」
ウテナ「あ。ミッキー」
幹「昨日は油断しました。でもこの次は負けませんから」
ウテナ「あー。おいおい」
次回予告
ウテナ「七実が、最近誰かに命を狙われているらしいんだ」
アンシー「まあ、大変」
ウテナ「まあ、大変じゃないよー。事件には動物が絡んでるってことで、君に犯人の容疑がかかってるみたいだぞ?」
アンシー「でもウテナ様、七実さん、暴れ馬と楽しそうに遊んでますよ?」
ウテナ「遊んでんじゃなくて逃げてんだよー」
アンシー「まあ大変」
ウテナ「次回、少女革命ウテナ、七実様御用心!」
ウテナ「絶対運命黙示録」